1900年1月11日付　琉球新報記事　画像□

渡清道中日誌(続)　半狂生

八日晴

知事鼓山に登るの催ありと云ふ声に呼起され早々食事を仕舞て共に河船に乗る。船は六畳敷余の部屋に椅子テーブルを置き別に寝間の設けありて専ら客船に用ゆるものなるが如し。

河舟を今朝こぎ出ててゆく先は

きり立山のふもとなりけり

朝霧を分て下ること一時間許り対岸に着す。臥路を過ぎて鼓山の麓に至る。寺あり門に入り東際橋を渡れば山径ふかかる左側幅数丈の瀧ありて遠く山上より落つ。水正に枯れたれども一条之巌石白光を発ち坐ろに盛夏の遊観を想はしむ。径は石階を設け松間曲折上ること数町第一の禅関あり。更に上り第二関を過ぎて第三関を半山亭と題す。暫く茶を○し足をやすめて猶ほ上れば観音堂に至る即第四関なり又た茗を煮るの僧あり堂前回顧すれば遠くは江水南台の地を廻り城内城外の市街連山広野の村落眼底におさまり近くは青松色濃かに世泉声清く龍巌虎石○痕鮮かなる其景色仙?啻ならず更に歩を運びて更衣亭に至る。昔?王僧?を訪ひ衣を更へたるの処なり云々と書せり是を五関とす。遙かに馬尾を望むべし石坂頗る急にして山麓より此に至る凡そ一里。

仰ぎ見て先立つ人をうらやむは

鼓の山ののぼり也けり

関を出て漸く山門に入る。本堂の正面湧泉寺と題す。客室に休息すること暫くにして一僧の案内に依り寺中を縦観せしむ。寺は十数棟よりなり広大なる建築にして名筆の○○を掲げ霊牙舎利を蔵めり。云ふ此寺は今を去る一千二百六十年前洞山和尚の開山に係り目下三百人の僧を養ふ清国四大寺の一なりと即ち曹洞宗なり。其名実に虚からざるを覚ゆ。寺僧の世話になれる昼食を認め寄附張を見せたるに幾許金を喜捐し一首を書す。

音にのみききてしのひし唐土の

鼓の山にけふはきにけり

更に紀念の為朱熹の版書を購ひ帰途放生洗心亭忘帰石等を見て下り待せ置きたる河舟に乗りて帰る時に午后五時比なり。知事も亦た数首を詠せりられた。

山寺はみな白雲につつまれて

もるるは鐘の音ばかりこそ

おもひきや秋の錦を唐土の

此山寺になかむへしとは