1900年1月19日付 琉球新報記事 画像

海外交易調査(続)

(二)鯣

輸出する鯣は只一種なり其他コブシメセイカと称するものあれども其肉甚だ厚くして乾燥するに困難なる為め製せず。輸出する鯣の価額は百斤に付本県に於ては凡そ十五円大坂に於て高値なるときは十七八円下落せしときは十四五円位なり。
本県鯣は製造不良なるを以て市場に於て価額低廉なる故に製造法に注意するときは価額騰貴すべし。

(三)海参

種類を上中下の三等に区別す。上とはシビ黒ウシヤゾウリゲタ等を云ふ。其価額は百斤産地に於ては平均三十二三円大坂に於ては之れを撰別して一番二番三番とす。而して一番の価額は凡そ四十五円二番は三十五円三番は二十八円なり。中とはカジマル白ウシヤの二種を云ふ。其価額本県に於ては二十四五円大坂に於ては二十七円位なり。下とはメハヤ一種なり。其価額は本県に於ては十四円大坂に於ては十五六円なり。其他下の下犬の糞と名くるものあれども尤も下等にして輸出に適せず輸出の尤多きは上等品なり又チリメンと称する海参あり。稀にある処のものにして本県人は之を薬種とす。価額は一斤二円位なり。

(四)塩辛シユクガラス

種類なし旧六月一日捕獲して製したるものを上等とす。其代価一斗に付高価なるときは三円五六十銭位とす安価なるときは一円二三十銭位なり。

(五)永良部鰻

種類なし大なるものを上等とす。一斤に平均四十銭位なり。

産地産額

一鱶は

本県近海至る処棲息すれども之れを捕獲して製するもの少なく本島南部の沖合八重山宮古の両島は著名なる産地なり。

産額は現今多からざれども右述べたる如く鱶は甚だ多きを以て捕獲すれば其産額を増加す然れども元来本県の漁業たる至極幼稚にして船体狭小恰も木葉の如く独木船に乗じ二三日の食料を貯へ僅々十二三里の沖合に出て釣針三本を卸し波間に漂ひて遠洋を浮遊せる魚族を捕獲せんとするも其捕獲の僅少なるは當然の理なり故に是れが産額を増さんとすれば宜しく幼稚なる魚業者を奨励して漁船漁具の改良を計り進で遠洋漁業を企てざるべからず。

二鯣は

本県に於ては久米島を第一とす。次に与那原近海津堅久高の両島八重山も亦重なる産地なり。此産額も鱶と同じく本島には烏賊は多きを以て其捕獲者の増加と漁船漁具の改良をすれば其産額も亦増加すべし。

三海参

重なる産地は八重山宮古両島の近海及国頭郡羽地間切の沿岸にして之れ重もに糸満人の捕獲して製造するものなり。其産額の増加も亦糸満人の多寡に依り大に差異あり。

四シユクガラス

シユクガラスとはシユクと称する小魚の塩辛にして之れは捕獲の期節ありて四季得るものにあらず。即ち旧六月一日二日三日七月一二三日八月一二三日の三回即ち大潮の際該魚の沿岸に近き来るにより之を捕獲す。斯く小四数漁業日なるを以て此数回中に暴風等ある際は漁猟高減じ市価忽ち騰貴し平穏なるときは多漁にして価額低廉なり。

六永良部鰻

島尻郡知念間切久高島に多し八重山宮古に於ても亦多小捕獲す。永良部鰻は久高島人多く捕獲す。

本県漁業は前述するが如く恰も糸満人の専有の如き有様にして他地方人の之を営むもの僅少なり又海に面する地方に至る処殆んど此糸漁人の住居せざる処なし。

三集散地

本県より輸出するものは総て大阪なりしも鯣は昨年より広東人の神戸に開館せしを以て神戸に輸出するに至れり。

本県に於て水産物を営業とするものは数店あれども総て兼業にして本業とするは古賀氏あるのみ故に此調査は古賀氏に就てなせしものなり本県人にして支那人へ直輸出するものなし。古賀氏は本店大阪にありて支那人と取引す。輸出先は重に香港上海南清なり。鯣は前に述べたる如く広東人と一手に取引す取引の有様は支那商人に特約又は依託販売するものなく支那商人より注文する事あり又輸出先に品不足のときは買廻る事あれども支那人は非常に狡猾にして多くはひやかし半分に来り其価廉なるときは買入高値なるときは買入ず又一致結合するの力強きが故に輸出先より如何に注文ありと雖ども組合人は決して之を外に顕さず価額の下落するを待て買入るなり。古賀氏の如く大坂に店の設けなきものは大坂の知己の商人又は仲人と称するものに依頼す。

金銭の取引は現金なる事は甚だ稀にして一週間乃至二三週間后に仕払を通常とす。原品の斤量又は見本に僅かの変動あれば価額を直切り受渡甚だ困難なり。
輸出税支那輸入税等は別に調査することとせり。

五運搬の方法及荷造の方法

運搬の方法は直接輸出せざるを以て明ならず。
荷造は本県より大坂へ輸出するに鱶鰭と鯣は同様にして角造と称し四角形に積み之れを圧搾して莚にて包み其上を数箇所荒縄を以て縛す。

斤量は一定せざれども鯣は凡そ百斤鱶鰭は三鯣より少なし海参は九作とし恰も米俵の如く包む。其斤量は凡そ二百斤なり。

シユクガラスは近来輸出せしことなし。已前は壺に入れ送りたり。

永良部鰻も已前少しく輸出したる迄なれば其荷造は明ならず。

神戸大坂より支那へ輸出する荷造法不明なり運賃は一才(一尺立方)を以て標準とす。其価は物質に依りて異なり其調査は追て掲ぐ。