1900年1月27日　琉球新報記事　画像□

渡清道中日誌(続)香港　半狂生

旅館

数軒のホテルある中に香港ホテルを一等とす。六層建の巨館海岸の地に聳立し数艘の小蒸気船を備て客の送迎をなす。外に三軒の日本宿屋ありて東洋館は尤も多数顧客あれども他の二軒に於ては耻敷営業を兼ねたるに比して評判宜しと云ふに過ざるの体裁なれば未だ旅行者の意を満たすに足らず。一言以て掩へは支那人の客桟と殆ど軒軽なきの観あり。ホテルは強ち宿泊者に非ずとも飲食自由なること恰も料理屋兼業の姿にして外に居酒屋とも称すべき一杯売の小店は処々に散在せり。支那料理屋は其数尠からず外観は却て他の支那地方の料理屋に勝れるの姿あり。日本料理屋も亦た三四軒ありて絃声時々市中散歩の新来人を驚かす。客に接するに紅裙を以てするの処異風にして寧ろ其特色なるべし。

水道

香港は一小島なれば天然の湧泉なく専ら山澗の雨水を集めて溜池となし更に対岸の九龍地方より海底を潜りて水を引き之を水源となし市内は勿論山顛の家屋に至るまで鉄管を通して用水を供給する。其有様は実に不自由を変じて最便利を得たるものと云ふべし。然ども旱秡に際しては不足を感ずることありて間々用水に関する制限の布告を廃するの場合あり聞くに水原地たる溜池の設計は甚だ精巧なるものにして政府は台湾に之を準用せんが為め目下技師を派して研究せしめつつありと云ふ。

遊興

公園及ひ花園は相接して一大区画をなし重に熱帯地方の草木を植る。巧に天然の地形を利用して種々の景勝を造れり土曜の夕日曜の朝花間を過ぎ樹陰に憩ひて正に心身を養ふの地たるに耻ぢず。其他倶楽部あり運動場あり競馬場あり演舞館の如き平日は公会場となし図書館博物館等を其内に設けたること遊興の機関に於て亦た頗る注意したるにあり。諺に能く働き能く遊と云ふの実を推想はしむ。

時正に十二月下旬寒暖計七十度を昇降す食後掎に據り清風に向ふの夜楼上より下○それは港内の燈火燦爛として快○言ふべからず。

天つ空星のひかりはかすかにて

港のほかげよもにさやけし