1900年9月3日付 琉球新報記事 画像

○清国貿易談(黒川氏)

記者一日黒川氏を訪ひ那覇港輸出入貿易談を得たるを以て其要領を左に掲載し以て実業者の参考に供す。

抑も清国は無尽の宝庫として世界強国の着目留意する所となり北清に南清に到る所競ふて航権を拡張し大に吾人の戒慎を要すべきものあり。然るに顧みて我国の施設を観るに北清航路は政府保護の下に定期航海を為すもの少からずと雖ども南清航路に付ては唯僅かに大阪商船会社が台湾総督府保護の下に於て香港厦門間の定期航海を為すに過ぎず而も其航海回数や甚だ少なきのみならず福州航路の如きは未だ定期船一艘も之れなく大阪商船会社が来る十月頃より定期航海を為すと云へど是れ果して実行するや否や未だ分明ならず。我国たるもの今日に於て確乎たる方針を定め十分なる計画をなすにあらずんば終に対岸の航権と商権とは挙て之を外人の手に委せざるべからざるに至るなきや。未だ保すべからず是れ我沖縄の実業家が福州に航路を拡張し以て貿易の発達を促さんことを切望する所以なるべし。其航路拡張に付実業家より提出したる航海補助金の請願に依り本県知事が熱心運動の結果主務省は実地調査の為め内田参事官を我沖縄に派遣せり。参事官は台湾より帰途立寄られ滞在僅か一昼夜に過ずと雖ども我実業家が熱望して居る事知事が最も熱心に之れを主張して居る事其他福州と那覇港との従来関係等も克く見抜て帰へられたる筈なれば此上は帝国議会の協賛に在るべし。

福州の不割譲を清帝に請求し其誓約を為したる以上は其儘に捨て置くことなかるべく相當の施設を為すと云へば先つ航権の拡張必要なるべし。我貿易の発達を図るに於ても是亦た航権の拡張極めて必要なるべし帝国議会は此等の必要を知るがゆえに一日も之れが保護を躊躇し以て其実行を遅延せしむるが如きことなかるべしと信ず。

那覇開港場を維持するに付ては実業家は是れより着々其設備計画に取掛らるべし。茲に輸出入貿易品の統計を示し以て聊か其設備上参考の資に供せんとす然るに旧流球藩時代に於て清国福州と交通貿易を為したる當時の輸出入商品の数量等は統計の微すべきものなきを以て今更之を知るに由なしと雖ども其主要なる品目を挙ぐれば輸出品にしては鱶鰭、鯣、海参、芋葛、草撥、泡盛、永良部鰻、塩辛類にして其輸入品は唐茶、唐綛、朱紙、傘、桐板糸、唐米、紅麹、蛇革、其他薬種類の如き専ら本県人の使用に慣れたるもの多しとす。此等の貨物は直接交通杜絶以来大坂神戸を迂回して今尚多額の輸入を見る。現に唐米の如きは年々十余万石輸入せり輸出は目下鱶鰭鯣海参の三種に過ぎざれども是亦た毎年大阪市場を経て清国に輸出するもの数十万斤に上れり。

(未完)