1900年11月15日付 琉球新報記事 画像

○黒川氏の糸満漁村談

去十一日黒川属書記官に同行して糸満に出張し親しく同地の漁業状況を視察する所あり。其視察に関する談話を聞得たれば紙上掲げて以て読者に紹介すべし即ち下の如し

「糸満村は本県第一の漁場たり。漁業戸数六百八十余漁船五百余艘あり。而して糸満村の漁者は心身強健にして不屈不撓の精神を有し彼れ等が猛悪なる鱶の巣窟の潜り込て貝類を採取し大波激浪を冒して東西に奔走し其大○なること内地漁業者も三舎を避くべし。本県下近海漁業のみに○○たらずして遠く進んで大島諸島の沿岸を荒らし尚進んで台湾島に遠航し漁業を試みる者あり。固より其収穫高も少からざるべし糸満村の現在漁船五百十五艘と称す今漁船一艘に付一ケ年五百円(実際は五百円以上なるべしと云)の実収ありと仮定するときは其漁獲金高二十五万七千五百円となるべし糸満村以外の漁獲金高を之れに通算すれば少なくも五六十万円以上に至るべし。如何に砂糖の産額多しと云ふど雖も其栽培肥料代製造費等の雑費を扣除するときは或は漁業の利に及ばざるべし且つ耕地には限りあり漁場の広き限なきのみならず所謂無尽蔵にして永久無限の宝庫たり。先つ糸満村の有様を見よ比較的生計の度高くして資本に富み金融も亦た活発普通農村の比にあらず。然るに悲むべき哉。糸満村の漁業者は旧慣を株守し漁舩漁具の改良労費の節約其他漁利を増加すべき法案等に就て更に意を用ゆるものなきは甚だ遺憾とする処なり。固より漁業の事たる地方に依り漁場の状況風涛の緩急及ひ漁すべき種類等に異同あるゆへに一概に得失利害を断定する克はずと雖ども遠航漁業即ち鱶漁鰹漁等に従来のくり舟を使用するの不利なることは糸満漁業者も之を諒知して居るなるべし製造品に改良を加へ成るべく高価に販売して多くの利益を収むることは糸満漁業者も異議なかるべし。要するに文明的思想に依り有効の新利器を斯業上に応用し漁具漁法の改善発達より水産業経営の方法組織の進捗を図らんとするものなきは糸満漁業者の為め最も遺憾とする処なり。」

(以下次号)