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無人島探訪記


四、蚊群の襲撃

 夕食をしていると、首をちつくりと刺すものがいる。捕らえて見ると蚊である。最速空襲がはじまつたと誰かがいう。
 黄尾島の爆撃かと思つたがそうではなく、これはネツタイイエカの襲撃である。音もなく飛んできて静かに止まり、手足等裸出て居ればところかまわず刺す。これが実に巧妙でいたくてたまらない。

 無人島の蚊は食物にかつえていると見える追払つてもやつてくる。今正に人間と蚊が二坪の幕舎の中で生存競争が展開されている。
 さてこれが幾日続くだろうかと思うと気になる。無人島で蚊に殺されたのではたまらない。
 アフリカ未開地に於けるねむり病媒介者ツエツエ蝿のことが頭にういてくる。打ち落されても次々と増強してくる。無人島のネツタイイエカは実に執念深い。生温い防除では間に合わない。
 最後の手を打つことにして硫黄燻煙をはじめる。
 漸く退散せしめたが床に就くと再び襲撃がはじまつてくる。一群のものは既に蚊帳の中に進入している。
 無人島の夜は磯に砕ける波の音と蚊の襲撃に更けて安眠が出来ない。そこで夜半に波打際に出たがそれでも又追いついてくる。

 天空をながめ海をながめ輝く星と大波の音にうたれ寂寞を感じつゝ睡眠不足のまゝに夜を明かした。
 この島にいる限り蚊の襲撃はのがれることが出来ない。

五.海の宝

 三月廿九日早朝から海の方が特別騒がしい。びつくりして幕舎を出て見ると、二隻の漁船がカジキの群を追いまくつている。海岸から二百米程しか離れていない。相変らず波は荒い。

 船は上つたり、下つたり、ひどく揺れている。突き台の上に立つている四人の漁師の槍は今まさにカジキを突き刺そうとしているが船がひどく揺れるので見当がつかないらしい。
 カジキは必死になつて逃げようとしている。
 時々そんな大きな中体が空に跳り出る。その光景は正に手に汗握る痛快事といえ、まさにあつと言う間に槍は投げられ、カジキにぐさりと突き刺さる。
 早速うきが流され、船は全速力で次のカジキを追い掛けて行く。他方約四百米のところでは人間と海洋鳥と魚の生存競争が演ぜられている。
 雑魚を追う海洋鳥と鰹の群やカジキを追う漁船群、無数の海洋鳥と魚群と八隻の漁船との間に食うか食われるかの一大決戦場が展開されて居り、この魚釣島でなくては見られない一大絵巻といえよう。船の中に投げ込まる銀白色の鰹、えつさえつさと引き上げられるカジキ、海亀等凱歌は漁船にあがる。
 漁船群を追つて移動分散集合常なく沖を走る。このような光景は沿岸又は沖合で毎日展開されて居り、これ等漁船の中には大島、沖縄から近きは与那国、宮古からも来ている。

 尖閣列島はまつたく海の宝といえよう。
 マス、カツオ、ハカツオ、トビウオ、イルカ、フカ、クジラ、海亀等に恵まれて居り、斯る海の幸は海流の関係が主体であろうが、又魚釣島そのものの地形と森林植物が魚附の効を多分に持つているものと思われる。

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