無人島探訪記


八、大じや生捕

 明けて三十一日島の縦横断を計画し島の最高点を指して早朝出発した。
 勿論道はない。自ら路を切りひらいて進まねばならぬ不利をまぬがれない。沿岸の灌木層から喬木層に入る山中には大小幾多の岩が重つて居りしかもコケが生えいるので容易に進めない。
 昼尚暗い密林がある。タブノキ、イヌマキ等の木材資源が目につく。体の小さな黒鳩がビロウの葉をばたばたたたいて飛び去る。アツマイマイが時々目につく。羅針盤を取り出して進む、二時間経過の後漸く南岸の絶壁上に出た。

 青臭い蛇の臭気が鼻をつく。後を振り向いてびつくり二三歩飛び下る。今通つて来たばかりのリユウキユウガキの根元に二匹の蛇が鎌首をあげてこつちをにらみつけている。
 運が良かつたと胸をなで下しながら後へ廻りあなをのぞいて見た。胴周り約三十糎と二十五糎もある二匹の大蛇のヤエヤマニシキヘビ?である。
 一人で生捕りすることは心細いので応援を求めに宿営地に向かつて大急ぎで山を下つた。三十分の後宿営地についたのであるが幸にして漁師も数名一時の休養のために上陸している最中応援を乞うたら心よく承諾してくれた。
 漁師三名製造人一人それに小生計五名、身軽になつて喜び勇んで出発した。
 既に一時間半を経過しているが余り急ぎ過ぎたため方向を違えてしまいとんでもない竹やぶに来て居る。漁師の三名は時間の都合でここから引き返すことになつた。
 製造人の大底某と二人でさんざん探し求めた結果漸く先刻の進路に出ることが出来た。
 約十分の後蛇の居所についたが一匹は既に逃げていない。附近探し求めたが見つけることが出来ない。居残つた一匹は余程警戒をしてこつちを向いている。大底某をして大蛇の前方で演技をさせ蛇の後方から首をしめる方法をとつた。

九、密林踏査

 午后二時進路を変換し再び羅針盤を最高峰に向ける。伐採しながら進路を向ける。
 どこを見ても主体を占める植物はビロウであり、高さ十五米、葉柄の長さ五米以上に達するものが沢山ある。葉柄の付け元にコメツキムシが居りこの虫を食うために長さが十四五糎もある大きなムカデがいる。うつかり葉柄をもぎとるとこのムカデにやられることがある。
 腐朽したビロウの幹中にはタイワンカブトムシの幼虫が見受けられる。
 海岸近くから中腹にかけてのビロウは一米位の高さで心芽をもぎとられ枯死しているものが多い。これは野菜代用として採取されたものらしい。

 奥地へ進むにつれタカサゴシヤリンバイ、クスノキ、イヌマキ、タブノキ、リユウキユウガキ、ガジマル、クサギ、ヤマグワ、クロツグ、アコウ、モチノキ、ツバキ、アカギ、オオバギ、フトモモ等の樹木は勿論、ハカマカズラ、ハマナタマメ、クワズイモ、ムサシアブミ、トウズルモドキ、フウトウカズラ等の生育が良く原生林相をそなえたところもある。殊にクロツグは葉柄の長さ七米に達するものがある。

 山林中の崖又は谷間にはサクララン、マツバラン、オオタニワタリ、リユウキユウセキコク?、リユウビンタイ、ノキシノブ、オニヤブソテツ、オオアマクサシダ、ヘゴの一種、ミズスギ等が目につく。時たまツマベニチヨウ、アサギマダラが谷間を飛んで行く。

 野禽として山林中で最も多く見られるものはメジロ、ヒヨドリであり、物珍らし顔で人を見つめるのは面白で。やはり無人島育ちの趣きを添えている。
 山頂近くに来ると蛇の臭気が鼻をつく。ビロウ、ガジマルが密生しているので昼なお暗い。ガジマルの気根が丸い

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