4. 手早く設営をすまし飯ごう炊さんをして午後から島の北半の採集に出かけた。 この南小島はモンパノキ、シロガジマル、クサトベラ、アダン、ムラサキイソマツの他は木が無い、草も全部海岸産のもので山のてつぺんまで海岸植物で占められている。 設営地の後方に屏風見た様な岩がそゝり立ち、その下は岩がくずれ落ちて斜面になつている。シロガジマルが岩と岩との間や時に岩の上に気根を下ろして平たく這いつくばつて何処が幹やら根もとやらさつぱり分からぬ。 海岸からくねくねと断崖の下まで一すじの道(というても時々人の歩いた様な草の低くなつたの)がついている、イソスゲが一ぱい穂をつけ、ハマボツスとハマダイコンは花ざかりで白、紫と咲き乱れ斜面は御花畑そつくりである。 その御花畑からカツオドリが胸毛をふるわせて一行を不安げに見つめている。 誰かゞ岩かげからとび出した、手に一本の棒切を持つている。 棒が一せんした、と見る間にギヤ―と悲鳴を上げ翼をばたばたさせながらカツオドリが飛び立とうとした。 また一せん遂に鳥は息絶えた。 ギヤギヤと鳴きながら一群の鳥が算を乱て飛びちがう。空巣には一二個の青味がかつた卵が残る、他の連中がこれを拾い集めて袋へつめこむ。 飛び立つた鳥は直に巣へもどる、竿がきらめく鳥が倒れる、未練を残してトミコウミしているもの、胸毛をふるわせながら巣にがんばつているものは巣付いてから日時のたつたもので卵の中はひなになりかけている。 この親鳥を殺すのは子を持つ親には中々出来るものではない。 ものの一時間に三十羽もとつたであろうか、卵は袋の三杯につめ余つたものはポケツト等へおしこんだ。 断崖にたどりつき一番乗りに先ず私が断崖をよじ登る、琉大生上運天君が私に続いた。崖は屏風を立てたようで裏はすさまじい断崖で下は海になつている、これやいかんと引返した。獲物は晩の食卓をにぎわした。 さやかな満月であつた、青天井に蚊帳をつり、草のしとねに石の枕をして寝た。 何万というカツオドリが我々をのろうがごとく、夜ぴいて鳴いている。丁度昔の豚市場の仔豚が一斉になきわめく声そのまゝだ。 この島の生物相は甚だ単調だ、殆んど珍品がない、淡い失望を感じ未だ見ぬ魚釣島に心を馳せている中睡に落ちた。 明くれば四月十一日晴天南の風、今日は午前中島の南半を採集して午後は魚釣島へと思うと心がはずむ。 一同思い思いの用具を持ち東海岸沿いに皆が張り切つてたこつぼ見た様な水溜を飛び越えながら行く、右手は断崖が続いてとても登れない。 水産課の知念氏がプランクトン網をたこつぼにつつこんでは出して一生懸命採集に熱中している、パチリとカメラに収める。 五百米位行くと断崖は斜面になつている。銃を肩にした高良氏が足場を見つけて登り初める、次々とそれに続く、竿がきらめいて又大殺りくが初まつた。 鳥は右往左往ギヤギヤと鳴きながら糞爆を落し初めた。 二三名が蛇だ蛇だと騒ぎ出した、上運天君が腕をまくして生どろうとしている。 トグロを巻いた七尺位のシユウダが呑気そうに舌をペロペロ出している。 上運天君が左手で尻尾をおさえて持ち上げたら大人しく右手に乗つて来た。この蛇は大変臭いと上運天君がいう、道理で臭蛇というんだなとその意味が読めた。 此の臭蛇は先島のニシキヘビと似ているが斑紋が無く全体がかつ色である。 此の一帯もハマダイコンとハマボツスの御花畑でカツオドリは之等を材料にして巣を作つている、文字通り花のシトネに寝るわけである。岩石にはタカサゴマンネングサが多肉質の葉を茂らせ星型をした黄金色の花を満開させている。 採集に汗ばんだ一同は風通しのよい断崖上で四方の景色をめでながら一休した。 潮の関係で長時間、採集することは出来なかつた。 << 4 >> |