11.

 四月十七日晴天、松本君と二人して先ず昨日の新噴火口と覚しき所から和平山の頂上を遠望し、しや二無二一直線に進む事に相談が纏まり、その通り実行した。

 登り口は縦に帯状の湿地帯であり、そこにヒメガマ、ミズスギ、オキナワチドリ、ナメリツノゴケ等のこの島では今まで見た事のない植物を採集しながら進んだ。
 此の島はアブが多いが、特に此の湿地帯は追えども追えども後からうるさくつきまとうぐらい多い、油断すると洋服の上からでも地下足袋の上からでも刺す。
 湿地帯の上部は木生羊歯のヒカゲヘゴが多い、ヒカゲヘゴの茂みをくぐりぬけて密林へ入つた。急に様相が変つて平地となり、ビロウやウラジロエノキの亭々として天にとゞくかと思われるものやタブの巨木などが勢よく茂つて雄大な感を与える。
 地中には大ミミズがせい息していると見え、猪がたがやしたように糞が散乱している。土もふつくらと柔かく理想的な森林である。

 道は爪先上りとなりだんだん角度が大きくなつて来た、が然し昨日に較べて非常に楽な地形であることはこれから先も予想された。
 三合目あたりで断崖にぶつかつた。左手しや面を廻つて断崖の上に出た。これから先は急しや面であるが、下から上へ巨石が階段状に積まれているので木の根や藤づるをつかむ必要も無く呑気に心よいまゝ採集することが出来た。
 此の一帯にミカンの木の一抱えもある大木が相当あつて面白い事には花も咲いているし、実も熟している。
 一寸見た所シークワシヤーやタチバナに似ているが、実の小さい事と必ず黄熟すること実が甘いこと、頭が必ず斜に傾むくので別種である。
 新種と思われるので私は仮にセンカクミカンの名を与えておいた。
 此の辺の岩壁で私は未だ採集したことのないホラゴケを採つた。だ円形をしたホラゴケは聞いた事が無い。
 これも新種と思われるのでセンカクホラゴケの名を与えておいた。

 松本君が同時にカタツムリの一種をとつた。甲らが平たく体がナメクジの様に馬鹿に長く紫色を帯びているのが特徴でさわるとミミズの様にピンピンはねる全くの珍種である。
 これと同じカタツムリが他の場所で棚原氏により採集された事も特記して置く。
 我々が之等の珍種を採集した場所は斜面の一番上で之から上はやゝ平たん地になつている。この辺が八合目位だと私は見た。

 昼食後、その平たん地を横切り木の間をすかして青空の見える所を避け、見えない所へ所へと進んだ。我々は今度はとても大きな断崖へぶつかつてしまつた。
 これじや和平山の頂上へ登れぬじやないか、突破口を発見することだ、というので左手へ廻つてみたが見込がない、今度は注意深く右手へ廻つた。
 日は大部傾いて日光も弱つてきたらしい、まごまごすると今夜は野営だぞと話しながら足元を見てとび上つた。

 赤紫色の小さな愛らしいツツジの一輪がこぼれ落ちている。
 私は反射的に上を仰いだ。あつたあつた、断崖を這う様にしてツツジの枝が岩間を流れ赤紫の花房がぎつしり付いて私を喜び迎えている。思わず新種だと叫んだ。
 松本君がびつくりして寄つて来た。そこに岩の割目があつて、あゝ何と見事なツツジの群落であろう。
 私はこんな美麗なツツジを琉球で見たことがない、全くキリシマツツジの群落そのまゝだ。

 私は世界一の大花を開く珍らしいツツジ火山島(方言名ウスフインガマー)を採集に来て別のもつと珍らしいツツジを採つたのだ。

 やつと我に返つてあたりを観察した。ツツジの古木は根廻り一尺以上もあるが、面白い事に此のツツジは枝が下垂して地につけば、たやすく発根して独立した個体を作り、次から次へと繁殖して行く。
 ツツジの蔭の土はオウタニワタリの根の様にふつくらとし、そこにはシマキクシノブやヒトツバが生えていた。

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